うちの欧文書体の素性と和文書体の同定の未来について

 アダナについてきた欧文書体の素性を知るために、以前知人に印刷した画像を送って教えてもらったことがあった。そしてやっと詳しい書体名が分かった。


うちの欧文書体一覧(印刷物の画像はここ

  • Palace Script : 24pt, 18pt
  • Dorchester Script : 18pt
  • Times (Bold) : 24pt, 12pt
  • Times : 10pt, 8pt
  • Bodoni (Bold) : 12pt
  • Old English Text : 10pt
  • Engravers (Bold) : 6pt
  • Engravers' Gothic : 6pt


 近頃は「人に頼ってばかりでは印刷工房など立ち上げられない!」と思って、その知人から教えてもらった欧文書体検索サイトをときどき訪問している。今更ながら検索で引っかかったブログ記事(知らなかったのはわたしだけ?)これとかこれを読んだり。


 上記のブログ記事にもあるとおり、Myfonts.comのWhatTheFont(ここ)というオンラインサービスでは、書体名を知りたい文字の画像を送ると、コンピューターが自動で書体を識別(形が似た書体を探す)したり、コンピューターの手に負えない画像の場合は、WhatTheFontForumという掲示板のようなところに画像を紹介して不特定多数のマニアな方々に書体名を教えてもらえるという欧文書体同定システムをとっている。一方identifont.comのIdentify a font(ここ)というオンラインサービスでは画像は必要ない。向こうが出す書体の特徴に関する質問に答えてゆくと最終的に当てはまる書体名が出される。チャート式というか、書体の特徴を検索項目として増やすことで書体を絞り込んでゆく方式で同定する。これはわたしも実際に試したのだけれど、書体のここを見ると識別できるんだなという勉強にもなったし、質問にどんどん答えてゆくと最後にぴたっと答えが出るというシステムは単純に遊びとしても楽しい。名前や生年月日を入力すると適当な判定が出るオンラインの占いみたいで。

 ということで、今の時代、欧文書体の同定はオンラインで簡単に、無機的にすらできるわけだけど、和文書体の同定は今のところ人の労力や記憶に頼るしかないらしい。まあ、identifont.comの同定方法を和文に当てはめて、データベースの整備や書体の特徴に関わる質問の選択肢をゼロから作ってプログラムするのなんて、欧文に比べたら果てしないことだ。画像を送信して不特定多数の方からの投稿による同定だったら、技術的には今すぐにできるだろうけれど、一体誰がやってくれるんだろう。
 でも、これと似たことが近代日本の印刷事情に幾度もあったことを思い出した。当初、日本に欧文の活字を持ち込んだ印刷業者が、ひらがなカタカナそれに膨大な種類の漢字を活字としてそれぞれ鋳造してストックして一文字ずつ手作業で活字を拾いながら文章を組むだなんて、アルファベットの国の人からしたらそれこそ「はてしない物語」に思われた。でも日本人はそれをやってのけたし、活版印刷はそれなりに日本の生活に根付いた。その後、デジタル化の波が海外から押し寄せたときだって、日本語のワードプロセッサ(というか、漢字変換?)システムの開発も同じようなものだったはずだ。
 それを考えると、あながちidentifont.com方式の和文書体同定サイトが現れるのも時間の問題かもしれないとも思う。ただしそこにはたくさんの障壁がある。今ちょっと考えただけでも、さっき挙げたデータベースや質問システムの構築に加え、人的労力や物理的機械的資源の確保とそれらにかかる費用の出所、各書体メーカーの承諾などなどなど。当然一人でできることではないから、たくさんの人たちにこのプロジェクトに関して説明してまわらなくてはならない。技術的に可能なのか、開発にどのくらい時間がかかるのか、誰が使うのか、商売になるのか、使用者と提供者にそれぞれどういうメリットがあるのか。今のわたしには説明できないことばかりだ。

 でもね、世の中にはバカみたいな夢物語を現実にしようとする人もいるし、その人の夢を応援してくれる人もいるんだってこと、わたしは知っている。だから現代のフリーターであるわたしの手元に和文活字があるのだし、今でも活字を鋳造して一本ずつ売ってくれる活字屋さんがあるのだよキミ。