活字の地金彫刻師に会ってきた1

3月8日に行われた活版印刷を知る勉強会「活字彫刻の世界」に参加してきました。

たくさん書きたいことがあるので、数回に分けて書きますわ。

まずは全体的な感想。
名人の神業に感服
活字地金彫刻とは、鉛合金の角柱に彫刻刀で鏡文字を彫ることを言うのですが、普通は鏡文字を下書きして、彫っている最中にも鏡で字の形を確認するでしょう。しかし清水名人はそんな手間のかかることはしません。最初っから彫刻刀で地金に鏡文字を刻みます。言っときますが、こんなやりかた、清水名人だけですからね。当時(大戦前後)地金彫刻師はたくさんいたそうですが、みんな下書きとか鏡で確認とかしながら彫ってたそうです。
「もうね、そんなことしてたら時間かかっちゃってしょうがないからね、納期があるでしょう、だからそういうこと(下書きとか)しないでどんどん彫るの。兄弟子の前ではしなかったけどね(笑)」みたいな軽いノリで名人は語ってくれてましたが、これは驚異的な才能ですよ!
以下、うろ覚えながら名人語録。


・この職業に就くきっかけについて。
「近所のおじさんに、手に職付けた方がいいって言われて、うちから50メートルくらいのところにある工場に連れて行かれたの。もうなにやってんのか分かんないくらい細かい仕事してるなって思ってね。自分はぶきっちょだから、すぐに逃げたんだけども、そこのだんな(彫刻師・馬場政吉)がね、不器用な子ほど一生懸命やるんだから、つれてきなさいって言ってね、なんせうちから50メートルだからね(笑)、逃げるとこないから、次の日に布団担いでだんなのとこに行って(住み込みで)弟子になったの」


・鏡像でない文字(読める形の文字)も彫れますか?の質問に対して。
「できないことはないと思うけどね、彫ってるうちに左文字(鏡文字)になっちゃうね(笑)」


・彫刻業を引退後、40年ほどやっていなくて、またやってほしいと頼まれたときのこと。
「道具も全部出てきて、こりゃあ、やれってことかなと思って。まあ、できないと思うけど、やってみようかなあと思ったの。そうしたらね、一日でできるようになったね。自分でも信じられないよ」


・美しい字のプロポーションは全部自分の頭の中にあるという話の途中で。
「(手書きの)字を書いてもうまくいかないの(笑)彫る時だけうまくできる」


名人のお話の最中、会場全体が何度も笑いに包まれていました。