活字の地金彫刻師に会ってきた3

名人の頭の中にしかない書体。
ベントン彫刻機*1やデジタルでは再現できないハライの先の尖り具合など*2が名人の一番のこだわりだという。名人の手によってしか表現できない美しい文字。実物を見た者にしか分からないので、なんともお伝えしづらいのが残念です。
私自身、ベントン彫刻機で作られた活字と名人の種字から作られた活字の、美しさの違いが分かるほどの目は持っていません。目の前に両方を並べて比べたら分かるかも知れないけれど、そんな機会はないだろうと思います。また、デジタル経由の文字を嫌っている訳でもありません。あえて言うならば、私はどんな場合でも文字自体は好きなのです。

会場でたくさんの方とお話ししましたが、みなさんの思いはだいたい以下のようなものでした。私も同感です。
「とにかく、この美しい文字を、たくさんの人に知って欲しい。だまされたと思って、活版で名刺を作っている印刷屋さんで、一度名刺を作ってみてください。活版による印刷物を見て触ってください。活版を絶滅に追いやらないために、今すぐにできることは、そのくらいなので……」


追記
角やハライの件について、私の記述よりももっと詳しい解説を頂いたので、追記します。ベントンが、パターンに沿って真鍮を凹型に削る際の記述があいまいでした。ご指摘ありがとうございます。
「角やはらいに丸みが帯びるのは、ベントンの針がパターンの端まで入っていかないからです。なので、きれいに先端まで再現できず、現在のパソコンの文字は更にドットの集合体なので再現できません。種字からですと、そのまま型をとるので、端の細かいところまで再現できます」

*1:歯医者さんの歯を削る機械のすっごく細かいやつみたいな道具で、真鍮を削って直接母型を作る。5センチ角に作った、文字の原型パターンをなぞるだけで、様々な大きさに縮小された母型が作れるため、職人でなくとも作れる。彫刻刀で彫っていないため、角や尖りがわずかに丸みを帯びてしまう。

*2:彫刻刀によって作る、いわば金属原子レベルの成形表現。