母型

先日ここで書いたように、活字の世界には母型というものがあります。まずは写真をご覧ください。

写真からもわかるとおり、母型には文字が読める(印刷したときと同じ)かたちで凹型に刻印されています。この母型に溶かした鉛合金を流し込むと、鏡像の凸型の活字ができあがるというわけです。そして、この母型、各書体メーカーがそれぞれ独自にデザイン・刻印していたので、ひとくちに「8ポ明朝体の活字」と言ってもA社の明朝体とB社の明朝体は形が違うのです。活字屋さんは母型を書体メーカーから購入して、その母型から活字を作って売りますから、C活字屋さんはA社の明朝体だけれどもD活字屋さんはB社の明朝体ということになり、印刷所は最初にC活字屋さんの明朝体を持っていたら、D活字屋さんの明朝体を混ぜて使うことができないということを先日の「もてあましのの」で言いたかったのです。

自分の活字がどこの母型か調べて、同じ母型で作っている活字屋さんから購入すれば活字を混ぜて使うことに問題はありません。しかし、現在活字を一本ずつ売ってくれる店なんて、そう何軒もあるわけではないから、やっぱりうちの「の」たちは単独で使うしかないと。


ちなみに写真の母型は某オークションサイトで購入しました。全て漢字で100個あります。メーカーのマークなのか、「IBS」と書かれています。書体の種類を調べてみたら、五号正楷書体、9ポ明朝体、8ポ明朝体でした。特に9ポ明朝体は「にんべん」の漢字が多かったです。この母型だけで意味のある単語ができないかなと思って探してみたら、いくつかありました。その中からひとつだけ紹介しましょう。

9ポ明朝による「任侠」です。旧漢字。