凸凹フェスタに行ってきた2

鋳込むワークショップのレポート。

カセットコンロで鉛を溶かすことができるんだ!


メツ活字を鍋に入れると、みるみる溶けていく。おもしろい。鍋からもうもうと煙が立ち上ってきていたが、この煙は吸い込まない方が良いらしい。うちでやるときは、外でやるか、換気を良くしなきゃな。


鉄のかたまりから削りだしたという、鋳型。底の凹みに活字の母型をセットする。鋳型は、溝が掘られた4つのパーツで構成されていた。積み木のように重ねて、中心の穴に鉛を流し込む。スプーンですくった鉛が冷めないうちに、すばやく流し込むのがコツ。


母型(写真では鋳型の右下側に飛び出ている黄色いヤツ)をセットした鋳型に、鉛を流し込んだところ。いっぱいこぼれた。鋳型の周囲に、おもしろい形で固まってる。ちなみに、作業は軍手着用で行う。鉛を扱うし、固まっていても鉛はまだ熱くて、素手なら火傷をしてしまう。


鋳型をひっくり返して、母型と鋳型の一部を外したところ。ぱかっと鋳型を外してみると、活字ができてる!つか、わたしが、活字を、つ、作った、のか!?


鋳型を1つだけ残して外したところ。
おお。うおお。ふおおおぉー!
興奮している場合ではなくて、活字がきれいに鋳込まれているかチェックしたまえキミ。


どれどれ。んー? あれ、「天」の右側の線が、鋳込めてないよ! え、なに、失敗したらやり直せるの? もっかいやれんのね? そうか、失敗すればもう一度できるのか!

スタッフの方も、鋳込みのワークショップは今回で最終回だからということで、時間の許す限り鋳込んでいいよと(参加者全員に)言ってくれた。ということで、最終的にわたしは11本の活字(魂入り)を鋳込みまくりましたとさ。


こぼれた鉛がキノコみたいで、かわいい。活字を作るより、キノコをたくさん作る方が楽しくなった。というか、今回使用させてもらった鋳型は、たった一つの試作品であって、さらにシロウトの手鋳込みであるが故に、活字屋さんで売っているような、本当に正確なサイズの活字は今のところ作れない、とのことだったのだ。それに、スプーンですくったら、すばやく鋳型に流し込むのが、やっぱりうまくいかない。スッ(鉛をすくう)、スッ(鋳型の上に移動)、スッ(流し込む)とやらなきゃいけないのだ。1回の「スッ」を1秒とすると、全体の動作を3秒で終わらせねばならなない。迷っているヒマはない。「スッ、スッ、スッ」を口に出してやってみる。少し位置がずれても構わずに流し込む。そうしていると、たくさんのかわいいキノコたちができる。


今回のワークショップで鋳込んだ活字は、14ポイントで、用意されていた母型は明朝体「天」「下」「泰」「平」の4種類。「14ポ」はグーテンベルク先生が最初に作った活字の大きさで、「天下泰平」は本木昌造氏が活版印刷の最初の広告に使ったキャッチコピーだかららしい。


そもそも、手鋳込み活字の鋳型を作ろうと思ったきっかけは、「印刷術教科書」*1の図版だったとのこと。欧米では母型をセットした鋳型を手で持って(それくらい小さなものだったんだね)そこに鉛を流し込むことで活字を鋳造していた。その鋳型は、ネジやバネなどを駆使して、正確なサイズの活字を効率よく作るために、また欧文特有の文字の横幅が可変的であることに対応できるように、複雑な構成をしていた。そういう鋳型の図版はいくつもの印刷技術に関する洋書に記載されていたが、「印刷術教科書」の例の図版は、もっとシンプルで、まさに積み木の形をしていたのだった。当初、日本に活版技術が紹介されたすぐ後に鋳造機が発明されたため、日本はほとんど手鋳込みの経験がないまま活字を作ることになった。だからこそ、グーテンベルク先生が始められた活版の歴史をもう一度たどってみる上で、手鋳込み活字を再現するのは意味のあることだと思った、ということだった。


それにしても、すばらしく興奮したワークショップだった。ありがとう。地球に生まれてよかった*2

*1:『印刷術教科書』昭和27年5月10日発行、ヨゼフ・ナジ著。八丁堀のあたりにある印刷図書館でヒットしたよ。自由に閲覧できるか分かんないけど

*2:山本高広